検証を売っているのに、自分たちの記事に機関名だけを借りた一文を見つけました
確認できていない数値は使わないという原則を掲げながら、自分たちの記事に機関名だけを借りた一文がありました。全件監査で見つかったものと、その対処方法をまとめました。
検証を売っているのに、自分たちの記事に機関名だけを借りた一文を見つけました
私は「確認できていない数値は使わない」をコンテンツの原則として掲げています。記事の末尾には毎回この記事で使わなかった数値という脚注を付け、何をなぜ外したのかまで公開しています。
その原則を、自分の書いた記事すべてに当てはめてみました。丸一日かかり、結果は芳しくありませんでした。
1. 機関名だけがあって研究がなかった一文
最初に引っかかったのはこの一文でした。
"BCG/HBR 2026 の研究によると、AIツールを多く使う起業家ほど…" — このような研究は存在しません。私の記事にあった誤った一文をそのまま引き写したものです。
私の記事2本に入っていました。もっともらしく見えます。機関名が2つもあり、年まで付いています。
しかし、私が実際に確認しておいたハーバード・BCGの研究は別にあります。コンサルタント758人を対象とした事前登録実験で、AIが得意とする領域の内側の課題で品質が40%向上したという結果です。発表は2025年です。
内容も違えば、年も違います。あの一文が言う「AIを多く使うほど生じる問題」は、その研究が扱ったテーマではありません。
つまりあれは引用ではなく、機関名を借りてきたものでした。他人の記事で見かけていたら、すぐに指摘していた類のものです。
2. 出典なしで出回っていた数値
一緒に見つかったものです。
- 市場成長率「CAGR 175%」
- 「MVPのリリースコスト90%削減」
- 失敗原因1位の具体的な割合
3つとも出典の記載がありませんでした。広く引用されている数字なので、どこからか流れ込んで文章の中に居座ったのだと思います。
一つ特に居心地が悪かったことがあります。それらの数値が入っていた記事の最初の節に、こう書かれていたのです。「確認できていない数値は保留または削除します。」同じ記事の中で、原則と本文が食い違っていました。
3. 検査ツールのほうが先に間違っていました
ここで、さらに困ったことが起きました。
私はコンテンツ検査用のゲートカードを使っています。ファクト・トーン・法務・品質・測定の5項目で、そのうち品質の項目に「ハッシュタグ2個以下」という基準がありました。
その基準でInstagramの原稿をチェックしたところ、違反と出ました。ハッシュタグが5個あったからです。
ところが自分の運用基準を見直すと、ハッシュタグの数はチャネルごとに別々に定めてありました。LinkedInは少なめに、Instagramはそれより余裕をもって、という具合です。
「2個以下」はLinkedInの基準でした。それをInstagramに適用してはいけません。言われたとおりに減らしていたら、自分で決めた下限を下回っていたはずです。
同じやり方で見直すと、その日に出た指摘8件のうち3件が誤判定でした。検査結果をそのまま信じて直していたら、問題のないものを台無しにするところでした。
4. 手作業の検査が見落としたもの
そこで、人が目で見る代わりに、検証用のツールを実際に回しました。結果は違いました。
ECサイトの離脱率を扱った記事でした。手作業で見たとき、私はタイトルの数値を出典のない数字と判断しました。間違いでした。本文には調査機関の原文へのリンクがきちんと付いていました。
本当の問題は別のところにありました。
本文はその割合を「約」という限定語とともに、そしてカート放棄率という指標名とともに記していました。ところがタイトルは限定語を外し、指標も**「決済直前の離脱」**に変えていました。
この2つは別の指標です。カートに入れたまま買わない人の割合と、決済段階まで進んでから離れる人の割合は大きく異なります。後者のほうがずっと低いのです。
出典は問題ないのに、タイトルが本文を歪めていたケースでした。これは単語検索では捕まりません。数字が登録されているかだけを見れば、通過してしまうからです。
(その割合の実際の値は、この記事には載せていません。ここで必要なのは数字ではなく限定語が消えたという事実であり、確認されていない外部の数値をこの記事で再び掲載すれば、同じ過ちを繰り返すことになるからです。)
5. それで何をしたか
一日かけて、次のように整理しました。
- 出典を確認できない数値は本文から外しました。論旨はそのままに、数字だけを外しました
- 機関名だけを借りた一文は代わりの引用を付けずに削除しました。別の根拠を急いで付けるのは、同じ過ちの繰り返しです
- 自動生成しておいた記事16本は公開せずにアーカイブしました。根拠のない割合がタイトルにまで入っており、似たテーマが六、七回繰り返されていました
- 検査カードのハッシュタグ基準をチャネル別に分けました。原因を直さなければ、同じ誤判定が繰り返されます
1件は最後まで救えませんでした。有名な成長事例の数値3つで、二次資料でしか確認できず、一次資料を見つけられませんでした。文章は残し、数字だけを外しました。原典を確認できたら、改めて入れるつもりです。
6. なぜこれを公開するのか
私が売っているのが検証だからです。
検証を売る側が自分の記事を検証していなかったとしたら、その商品には説明だけがあって証拠がないということです。そして、こうしたことはたいてい外部から先に見つかります。
もう一つあります。今日見つかった問題の多くは、AIが書いた下書きを人が十分に見ないまま通した痕跡でした。機関名を付けたもっともらしい文章を、AIはとても上手に作ります。読む側もあっさり受け流してしまいます。
ですから私の結論は「AIを使うのを減らそう」ではありません。AIが作った文章は検査の対象であって、成果物ではないということです。その間にゲートが必要で、そのゲートも定期的に点検しなければなりません。今日はそのゲートの一つが間違っていたので、手を入れました。
今日一つだけやるなら
いま外部に公開している記事を一つ開いて、数値が入った文を一つだけ選んでみてください。そして、その数字の出典を実際に開いてみてください。
リンクがない、あるいは開いてみたら別のことが書かれている — それなら、私が今日出会ったものと同じです。
脚注
① 参考にした資料(確認日 2026-07-26)
- Dell'Acqua, F. ほか — Navigating the Jagged Technological Frontier. Harvard Business School Working Paper 24-013 · Organization Science (2025). コンサルタント758人の事前登録実験、境界の内側の課題で品質+40%。https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=64700
- 本文の監査結果・対処内容は自社の運用ログです。対象は私のブログ原稿5本、公開待ちの原稿10本、自動生成分16本です。
② この記事で使わなかった数値
- 監査で削除した数値の元の値 — 本文にそのまま載せると、確認されていない数字を再び広めることになるため記載していません。「市場成長率」「コスト削減率」のように項目名だけを残しました。
- 成長事例の紹介プログラムに関する数値3種 — 二次資料でしか確認できなかったため外しました。この記事でも数字は出さず、「一次資料を見つけられなかった」とだけ書きました。
- 4節で扱った離脱率の実際の値 — 監査対象の原稿で引用されていた外部の数値です。その原稿には出典が付いていましたが、この記事の主張を裏付ける根拠ではなく、事例にすぎないため、値は載せていません。確認されないまま再掲載されるのを防ぐためです。
- アーカイブした自動生成分に含まれていた割合 — 根拠のない数値としてアーカイブ判断の理由になっただけで、ここに載せる理由がないため、項目のみ触れました。
③ 作成方法
AIで下書きを作り、人が検証・編集しました。この記事の主張の根拠として使った外部の数値は、①の原文確認済みの1件のみで、残りの記述は自社の運用ログです。4節の離脱率は監査事例としてのみ触れ、値は載せていません(脚注②参照)。生成AIによる画像・音声は使用していません。
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いま公開している記事の数値を一度も見直したことがなければ、2分の診断で最初に点検すべきポイントを確認できます。答えられる範囲だけで構いません。 https://www.star-t.io/ja/ai-readiness?entry=content_buildlog_citation&utm_source=blog&utm_medium=organic&utm_campaign=buildlog_2026&utm_content=blog-p1-borrowed-citation
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